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勝手な妄想ばかりを繰り広げていると、私の視線を感じたのかその生徒はこちらを見上げて、また顔を楽譜に向き直した。
そこでやっと自分が全く別のことに意識を集中させていたと気付かされる。
「......っと、こんな事してる場合じゃなかった」
すっかり黄昏てしまっていた自分に喝を入れて、再び歩き出す。
夕暮れ時の廊下には誰も歩いておらず、私の長い影だけが壁に張り付いている。 やがてその影も後者の影に染み込んで姿を消す。
影に覆われた廊下はどこか涼しい。 ひんやりとした空気を肌で感じながら薄暗い廊下を歩く。
横を通り過ぎる生徒のいない空き教室はどこか愁然を感じさせ、同時に哀をも押し付けてくる。
なんだかたった一人だけ高校に取り残されたような気分になる。
「先生、どこにいるんだろう」
生徒もさる事ながら先生も見当たらない。 職員室に出向けば一発かもしれないが、新聞部にどのような事情があったのかは未だ不明だ。
センちゃんの推理によれば「何かしらの不祥事を起こした」らしいけど、本当にそうなら先生という観衆の前で堂々と質問するわけにはいかない。
あくまでも慎重かつ冷静に行動しなければならないのだ。
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