一、消えた存在

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口を尖らせた先輩は、けろっと表情を戻して「あ、そう」と呟く。 「でもさ、まさかセンが無類の推理小説好きだとは知らなかったよ」 腕を組んで感心するかのように頷いている。 「お前に言ってなかっただけだ。 どこをほっつき歩いているか分からん相手に言えるわけないだろう」 「適当に歩いてるんじゃないよ。 ちゃんと意味を持った行動を心がけているつもりだ」 意味を持った、ね。 広太の事だから、どうせくだらない事だろう。 訊いてほしそうな顔をしていたが、あえて無視する。 話をさせると長くなるのだ。 「推理小説好きは俺に訊くよりも、先輩に訊いたほうが良い話が聞けるだろ」 「楽しみは最後まで残しておくもんだよ」 「そんなものか?」 「もちろん! それで、どうして先輩は推理小説が好きなんですか?」 広太の興味津々な視線が先輩に向けられる。 そんな視線も嫌がる事なく受け入れて、先輩は声を弾ませて語りだす。 「そうね、私が初めに読んだのはホームズのーー」 こうして今日のスイケンも、くだらない雑談で時間が過ぎて行く。 放課後のたった一時間程度。 こんな非生産的な会話にもちゃんと意味がある。 曰く、 部活動してますよアピールだ。 この広学高校は部活動(特に文化系部活)が盛んである。 数にしてどれくらいだろう。 恐らく五十ほどはあるんじゃないだろうか。 名前を見ただけでは創部目的が不明な部活動も中にはある。 俺が見たもので一番謎だったのは、『魔法研究会』だった。 ファンタジーを追求するのは人それぞれだが、非現実的な事柄を創部してまで追求する必要はあったのだろうか。
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