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__巻き戻りはしないだろうかと、何度考えたことか。
あれから10年も経てば忘れるだろうと思っていたのに、まあこんなにも自分に執着心というものがあるとは驚きだ。
もう私は38歳になる。
昔は、女性に困らない容姿のせいか恋人のような存在が複数いた。
特定の恋人は作らないまま、気ままに過ごしていたがある日出会ってしまったのだ。
若かりし28歳の、雪の夜に。
「邪魔です。」
彼女が発した言葉は痛烈で最悪だった。
あるパーティー会場での席でいつものように気になる人に声をかけていた。
だが彼女は自分のことは眼中にないようで、早く目の前から去ることしか考えていない。
「まあそう言わず、ダンスでも。」
自分も意地になり、押し問答が続いていたのだが邪魔だと言われてしまった。
「…では一曲だけ。私は得意ではないですがよろしいですか?Mr.ローレンス。」
「名をご存知でしたか。大丈夫ですよ。ええと、Ms.…」
名前を知られていたことは嬉しいものの、自分は彼女の名を知らない。
「私は名乗るほどのものではございません。お気になさらず。」
聞けない雰囲気というのはこういうことで、聞く前に断られてしまう。それでも笑って、良いエスコートして踊った後に聞こうと思っていた。
ピアノの旋律が始まり皆踊り始める。
踊る彼女は拙い動きながら、美しい。
凄く美人というわけではないが、立ち居振る舞いがどことなく凛々しいのだ。
背筋が真っ直ぐでターンのキレの良さ。
明るめの茶髪と上品な薄水色のドレスが揺れている。青色のショールはより綺麗に際立たせていた。
ふと、彼女越しにテラス席が見えた。
闇に散らつく白い雪が溶けて消えるように、彼女もどこかへ消えてしまいそうな…
まるで雪の妖精。
ダンスが終わり、名を聞こうと試みたが…
「こんなところに居たのか、そろそろ行くぞ。」
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