スノードロップ

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なんと邪魔な…と思いつつ声の主を探すと、目の前には着流し姿の黒髪短髪の男。 彼はこちらを見ると片眉を上げ、挑発するように彼女の肩を親しく引き寄せた。 恋人が居たのかと、ショックを受けたものの彼女がバサリと放った言葉は否定してくれた。 「東城(とうじょう)、気安く触れるな。」 「あぁ分かったよ。」 ただ、軽口を叩いてるあたり親しい仲なのは本当らしい。 この男は東城というらしいが……ん? 「あの、東城グループの?」 「それは父なのですよ。自分は茶道家の東城。」 どちらにしても、それは間違いなく上流企業だ。 自分もだが。 「東城、時間。」 「あぁ。では失礼。」 彼女に急かされ、2人は出て行く。 慌てて、名前だけでも知りたいと彼女の腕を掴んだ。 「……貴方は、朝が好きですか?」 「え?」 去り際、唐突に言われたこの問いの返答に困り手を離した。 何も言葉を発せなかった。 彼女はそのまま雪の様に闇に消えて行ってしまった。 この時この問いに答えられていたら何か変わっただろうか。 それは分からない。何が正解だったのかも。 「ごめん、懐中時計…知らない?」 ただ、今目の前に彼女と一緒に仕事をしているこの瞬間がとても愛しい。 「これだろう?」 「ありがと。」 彼女とはあれから自分の奮闘もあり、友人として良好な関係を築けている。 そんな彼女がこの間、結婚を前提に付き合いだした。側に立つことを許した相手は、1人だけ。 自分の全く知らない普通の男だった。 東城と自分は、悔しく思いながらも2人を祝福した。 可憐な雪の妖精に、花束を送ろう。 スノードロップの花言葉は希望。 自分は振り向かせようとした。自分を見て欲しくて。 ただ、彼女の救いとなったのは彼だった。 貴方の闇ごと愛した男と共に、幸せになってほしいと願う。 スノードロップの花束を送ってから気持ちに区切りがついて、自分も所帯を持った。 ただ、彼女の最後には駆けつけた。もちろん東城も。
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