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同じ仕事仲間として誇りに思う。
彼女は人々を救ったヒーローであり、戦友だ。
共に走り続けた。
朝が怖いと言った孤独な彼女。
もう、怖くないだろうか。
何かが彼女の重荷に、鎖になっていたのは知っていた。
もう、解かれただろうか。
雪の色した髪になった彼女はその一生を走り終えた。
最期の顔は、とても穏やかだった。
あまり笑わない人だったからこそ安心した。
最期の日を思い出す。
彼女の傍らには秘書と夫。自分が辿り着いた頃にはもう眠った後だった。
いつの日か彼女の夫に聞いたことがある。
「彼女には忘れられない方がいます。」
「聞いたのですか?」
自分も彼女の話に興味を持ったが、彼はあくまで想像だという。
「聞きませんし、言ってはくれない。恐らく墓場まで持っていくつもりでしょう。」
「それでも貴方は…」
自分とは違う、懐の大きさに驚いた。
そしてほら、病院の外に今日も沢山の人々が来ている。
真摯に救い続け、しかしながら謙遜し大した事はしていないという彼女に誰しも魅了された。
ああ、外に雪のような紙吹雪が舞っている。
彼女の栄光を称えて人々が空に撒いているのだ。他の入院患者達も一緒に。
延命治療をせず、自然に最期まで生きたいと言った彼女を元気ずける為にしているのだろう。
人々はその選択に残念に思ったが、せめて最期まで笑顔でいられるように配慮している。
彼らもあと数分もすれば彼女が息を引き取ったことを知るだろう。
「__幸せになりなさい。」
いつの日か優しく微笑みながら言われたことを覚えている。
「もう儂も歳だなぁ。孫に会いたくなる。」
もし次出会えたら、とても幸せだったと彼女に伝えよう。
「おじいちゃーん!」
駆け寄ってくる2人。そのうち1人は自分の孫だが、もう1人は彼女の孫だ。
自分の手には彼女から託された懐中時計。
「この懐中時計は頂きものなの。あの子にいつか渡して。」
いつか彼女の孫に手渡す時が来るだろう。
出会って、恋して、失恋した。
そして友として尊敬し、いつも遠くを見て哀愁漂う彼女に幸せになって欲しかった。
この一期一会は忘れられない大切な出会いだ。
よく考えれば、彼女に幸せにしてもらったようなものだ。
適当に生きてきた自分が、真っ直ぐな愛を知った。
そしてまさか自分が家族を持てるなんて思わなかった。
愛を教えてくれた彼女。
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