今日を生きた僕は、昨日死んだ君になりたい。

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 「君がなんとなく生きた今日は、昨日死んでった人たちが生きたかった明日なんだ」 こんな言葉を誰かが言っていたのを聞いたことがある。  今にも泣き出しそうな僕に、空はこれっぽっちも優しくなくて、満面な笑みで僕を見下していた。  そんな晴天な日に彼女は死んだ。彼女の命の価値の代償として、僕は「色」を見分けることができるようになった。「あぁ、空ってこんなにも青くて綺麗だったんだ」僕は一人呟き、彼女との思い出の場所である空色公園を後にした。  僕は以前、彼女と会う前から「全色盲」という色が認識できない珍しい病気に罹っていた。色がわからない。そんなこと言われても普通は誰も理解できないだろう。だから僕はいつからかそんな病気のことをこう呼んでいた。「ノーカラー」と。呼びやすい名前だ。だからクラスメイトでもある彼女に、いつも「ノーカラー君」。なんてふざけた名前で呼ばれていた。  僕はクラスメイトであった彼女に連れ出されない限りは、以前から自分の部屋で本を読むことが多かった。本の中でも僕は小説派だ。小説は引き込む力がある。色がわからない僕にとって、小説を理解するにも本を読むにも難しいことではと思われがちだが、そんなことはない。色と言っても黒や白が僕にとっての色であり、生きる道しるべでもあった。どんな色も僕には白黒に見える。そんな当たり前が、そんな日常が、彼女によって変わっていた。  現在読んでいる本は、彼女から依然借りたものだ。彼女が愛したその一冊の本は、借りてからずっと持っていて、彼女が死んでしまう前に返そうと思っていたのに、間に合わなかった。  その本を毎日のように読んでいる。ベットの上で、その本を読み終える頃にはもう夕方になっていた。携帯の着信音が時間の経過を知らせてくれた。18時50分。夕飯を作っているお母さんの声が聞こえてきた。  一度は部屋を出て台所に行こうとしたのだけど、僕はもう一度ベットに戻った。彼女が最期に言った言葉を心の中で確かめながら、僕はもう一度本を手にし、いつのまにか眠っていた。
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