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「兵隊さんが冬以外もいてくれたらなぁ、そうしたらいつでもお話しできるのになぁ」
「それはできない」
「どうして」
「俺は寒がりだから」
「それならどうして冬にしか出てこないのさ」
「どうしてだろうな」
男はそう言って、新衣子の目をじっと見つめた。曖昧に返されて、新衣子は不満げに口を尖らせて酒蔵の階段に腰かけた。
「兵隊さん、私が6歳の時からの付き合いなんだから、そろそろここにいる理由くらい教えてくれたっていいんじゃない」
「俺は戦争に行って、戻らないと自分でわかっていた。妻と子供を遺して俺は死んだ」
「奥さんと、子供はどうしたの?」
「よその男の後妻と連れ子になった」
「あなたはどこにいるの?」
「うみのそこ」
男はこの日はそれきりなにも答えてはくれなかった。じっと、以前と同じようになにを見るでもなく佇むだけになった。
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