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「ああ。間違えるなよ」
またも、新衣子を見ずに父親は返した。
「うん」
食卓について、新衣子はトーストにマーガリンとイチゴジャムをたっぷり塗って、おもいきり噛み付いた。母が新衣子のグラスに牛乳を注いで、野菜たっぷりのコンソメスープを持って来てくれる。それには大好物のトマトが入っていた。
「やった!ミニトマト入ってるー!」
コンソメを吸ったトマトは、器の中で潰すとじんわりと色を広げて種を散らす。新衣子はその様子を見ているのも、スープを口に運んだ時のドロっとした舌触りも好きだった。
「新衣子、遊んでないではやく食べなさい」
皿を洗っている母が珍しく急かすので、新衣子はせっせとトーストをかじって、器を傾けてスープを飲み干した。
すると、傍に義父が近づいてきて、新衣子が見上げると、冷たい視線が降りてきた。
「グズグズするな、ガキ」
新衣子は目を丸くしながら、食べかけのトーストを口に詰め込んだ。ようやくからになった食器を、義父が取り上げ、母のいる流しに持って行く。
新衣子は牛乳でトーストを流し込むと、そのグラスも義父に取り上げられ、几帳面に食卓を拭き始めた義父に追い払われるようにリビングを出た。
廊下の窓から見えた外の空は分厚い雪雲に覆われ、大つぶのほわほわとした雪が舞い降りて来ていて、まだまだ積もりそうだった。
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