幽霊、ガマズミの花

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母の運転する黄色いハスラーは、新衣子のお気に入りだ。コックピットのような助手席の黄色い内装も大好きで、お腹の底から元気が出てくるよう。 母の好きなご機嫌な音楽を聴きながら走るのが、新衣子は大好きだ。 しかし今日は母は音楽を流さない。母の表情は、空の曇天に似た、さびしい色をしていた。 「おかあさん、今日は音楽聴かないの?」 「……そうね、なんだか、元気が出ないの」 赤信号で停車し、新衣子の方を母は見ようとしない。横断歩道を仲の良さそうな恋人たちが白線を気にしながら楽しそうに横切って行く。 新衣子は、にこにこ笑って母に顔を近づけた。シナモンに似た、大好きな母のにおいがした。 「音楽を聴けば、元気出るよ!」 新衣子のその言葉に目を瞬かせた母は、泣きそうな顔でほろっと笑った。 「…そうね!でも、おかあさん、新衣子のにこにこ顔見てるほうが元気出るわ!」 車を発進させると、新衣子はシートに背中をつけた。母親を笑わせるのは、新衣子の得意技だ。母だけではない。 家族や親戚、友達も笑わせるのは新衣子の得意技で、そして当たり前のことだった。
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