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義父が所望したカーテンを購入し帰宅すると、新衣子はハスラーから降りて黄色のかわいいボディーを撫でた。ごくろうさん、という意味である。
母は「もー、汚いからやめなさい!」と言いながら新衣子の髪を撫でて笑った。
新衣子たちがすむ一戸建ての家には庭があり、シルバーの近代的な柵がある。車庫も同じデザインの柵で、冷たく、格好良く、牢獄のよう。
新衣子がたまに的確な箇所をほめて義父が何も言わない時は、彼の機嫌がいい時だ。
義父と初めて会って、何度か会ううちに気付いた。
義父は出かけているらしく、母はリビングのカーテンを取り付ける作業をしようと、脚立を持ち出した。新衣子も手伝おうと、つけていたカーテンをつかみ、ふと庭を見た。
「あれ?」
「どうしたの、新衣子」
「兵隊さん、ついてきちゃった」
「あら、あなたまだそんなこと言ってるの?どこにもいないじゃないの」
新衣子は中庭に佇むあの兵隊の幽霊と、ガラス越しに対面していた。
こんなに離れたところまで、どうやってついてきたのだろう。
じっと新衣子を見つめる男は、新衣子がカーテンに隠れながら手を振ると目を細めた。その優しい眼差しは、いつもの彼だ。軍帽も軍衣もそのまんま。ただ、酒蔵のある裏庭にいた時よりも寒そうに見えた。
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