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部屋を出ると、廊下で何人かの顔見知りとすれ違う。
ここで、コンビニに行くなんてことがバレると、アレ買ってこいコレ買ってこい、と欠食児童の大群が押し寄せてくること蟻の如し、なもんだから談話室へ行くかに見せかけること必須。挨拶を交わしながら、参考書をフリフリ見せつける。
下駄箱で靴と履き替えたスリッパの上に、手にしていた参考書をやれやれと、乱暴に乗せた。
「お前って、こういう芸は細かいよな」
「ぅせー。お前と違って俺は人気もんなんだよ」
「だな」
俺の憎まれ口をあっさり肯定して、酒井は玄関の引き戸に手をかけた。
ピチッと閉まっていた扉がほんの少し開いただけで、外気の冷気が入り込み、一気に尖った空気に包まれる。
「ひやぁー、さみいなぁ。こりゃ雪降るぞ」
思わず首を縮めて声を上げる俺の前で
「マジで~? 楽しみだなぁ」
酒井は子供みたいな甲高い声をあげて、真っ黒な空を見上げた。
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