α1

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俺は何となく聞くに聞けず、黙って足早に進んだ。 そうして酒井の隣に並ぶと、奴は横を向いて俺を見た。 「俺さ、国籍は日本なんだけど、生まれた時からずっと台湾で育ったんだよな。 なんていうか、日本人だけど台湾人でもあるというか」 「そうなのか? けど日本語、普通じゃん」 「まあ言葉はな。ずっと日本人学校だったし、日本語の勉強は常にさせられたからな。家の中は日本語だったし」 「でも、中国語ベラベラなんだろう? もしかして英語も?」 「そりゃ暮らしてたんだから、話せるよー」 「まじか。トライリンガル、ってやつか」 「まあな。中国語はちょっと台湾訛りだけどな」 酒井はポケットに手を突っ込んで、気恥ずかしそうに笑った。 出会ってから、こんな話をしたのは初めてだった。 「へぇー。すげぇなぁー」 酒井の根っこの部分を見せてもらったような気がして、俺はちょっと嬉しくなった。
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