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7.こたつとみかんと母と娘
頭の中に私がまだ産まれる前の、父さんたち家族が見えた。みんなの声も頭の中に聞こえた。ずっとずっと見続けていたい幸せな夢のようで、ニイっと自然に私の唇はどこまでも裂ける。
「テレビ見てないで、お風呂入りんさい」
「もーちょっとー」
あは、お父さんったら、もー、言わせへんからな。言質とったぞ。
「千点百円ね」
「お年玉洗って待っとれよ」
あー、家族で麻雀ってお金賭けとったんや。わるー、でも楽しそう。
と、あれ。私は目を開ける。木田さんが右手を離して、頭の中が空っぽ。
と、少ししてまた握ってくれる。パッパッパ。私と木田さん、電球はこたつ机。私たちは電池?
木田さんの気遣いかな。女子高生の私に見せたくない何かも、こたつ机は見ていたのかな。全部、見たい、聞きたい。けど、武士の情けも必要やわな。
「洋子ちゃんと行きなさい」
「まだ怒ってるの? 行こうよ、お兄ちゃんのお芝居」
ん、叔母ちゃんと、ばあちゃん。みかん食べてる。
「あんな子知らないよ。あんだけ仕事やめてくれるなって頼んだに」
「でもねぇ」
「あの子はやさしい子やったのに、お菓子の取り合いとかしたことないだろう。譲れる子やのに。なんで、今回ばっかり」
「それはね、母さん。自分よりも誰かの気持ちを優先してきたお兄ちゃんが、初めて自分の気持ちを優先させた、その相手がお母さんだったってことじゃない」
「……」
「わかる?」
「そうかね」
「チケット代二人で四千円です」
「あの子に払わせましょう」
「そうしましょう」
木田さんの左掌と、交換に頑張っている木田さんの影さんありがとう。木田さん、どうもありがとう。
「また、来てもいいですよね。いいって言ってください」
「いいですよ。いつでも」
「いてくださいね」
「たぶん」
「頼りないの」
リンゴジュースがチンチンと鳴る。錆びた門扉の前で、父さんが仁王立ちしている。
「おい、あんまり心配させるなや、さぼるにしてもほどがあるぞ。もう暗いやないか」
「すまんすまん」
「なんや、ジュース買いに行ってたんか? あほか」
「いやー、父さんに提案があんねんけどな」
「まず、謝らんかい」
「すまんゆーたやん。あんなぁ」
「なんや」
「うちにもこたつ買おうや」
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