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解体屋さんにお願いする前に中の整理をと。父の運転する軽トラックは荷台がサビサビで塾の迎えはノーサンキューしちゃうけど、ばあちゃんちへの長距離移動にはなんだか頼もしい。
ガタゴトと時折お尻がシートから浮かんで亡くなったばあちゃんがお尻の下を通り抜けていったよな気になる。橋の下で渦巻く潮の真ん中で笑うばあちゃんを探し、サービスエリアのアメリカンドッグ売りの中にばあちゃんがいる気もした。ここ数年は夏休みにしか会っていなかったのに、会えないとなると途端にスニーカーの靴紐結び直す自分の手にもばあちゃんが四分の一いると思えて秋風に頬を冷たくした。初めて私が履いた紐の靴、蝶を結んでくれたのもばあちゃんだったな。
「ばあちゃん、幸せやったかな?」
カロリーメイトを口に放り込んであげて、父さんに訊く。ほら、餌あげたから答えてちょうだいな。
「んー、口の中バサバサなので少々お待ち」
父さんはカロリーゼロでもないコーラを口とお腹に流し込む。
「幸せ不幸せってものはごろんごろん寝返りうつみたいに変わるもんやと思うねん。さっきは口の中バサバサでちょっと不幸。今は口の中潤って幸せ」
「例えがひんそやね」
「やかまし。ばあちゃんはあの広いうちで一人にさせてしもたけど、兄妹で孫も連れて年始やお盆に集まれたし、なにより布団の中で寝たまま息引きとったやろ。病院じゃなくて。だからまぁ、息子の俺からは、幸せやったんちゃうかなーと、こう言えるから、それが幸せの証拠ちゃうかな」
父さんは苦手な運転に体強張らせてもうてたけど、いい表情をしていた。
「親不孝もした? 思春期の頃とか、私ぐらいの頃とか」
「うううんとう、夏美、カロリー補給プリーズ」
「これで最後やよ」
「これから語るは他言無用ぞ」
「わかったよ」
カロリーメイトの最後の一個。ばあちゃんちまで、もう少し。
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