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2.こたつの天板うら緑
「タオルでええのに」
「無粋無粋、ほら、父さんの分も手拭い持ってきたから。娘の心配りを無下にすると帰りの運転怖いで」
「恐ろしい娘にしてもたなぁ。頂戴。ほら、こうすると、よっ」
父さんに何か持たせると面白い。なんか変わったことできひんもんかといつも考えているらしい。手拭いねじってどうするんな。
「ほれ」
「ああ。泥棒か」
「へっへっへ、婆さんの野郎め天国ツアーで留守とみえる、相棒ちゃっちゃと金目のもん見つくろっちまおうぜい」
「無粋より悪い、無礼者、ちゃんとしょーな」
「ごめんなさい」
「でもさすが売れない役者やね、江戸時代かと錯覚したわ」
「売れない? 父さんにやさしくないと小遣い日に怖いで」
「べっつに怖くないもんね」
「不公平やなぁ」
父さんと私、手拭いほっかむって、ばあちゃんの遺品整理を始める。
「服類はもう、全部捨てる方で」
「ぬいぐるみとかお人形はどうする?」
「んー、亜矢子はもう要るもんは持ってったらしいから、夏美が要らんのやったら捨てる方やな」
「んー、可愛そうな気もするけど」
「それゆーてたら、いつまでもこの家解体してもらえません」
「鬼にならんと渡世はできんこともあるか」
「角は女なら持っておきなさいや。男の腕力に対抗するために」
「まだ、生えてへんか?」
「まー、まだ十七やからな」
「もー十七やけどな、女子高生最強の生き物説知らん?」
「知りとない、口はえーから、体動かして」
「連動しとんねん、黙ったら、動かれへんわ」
「じゃぁ、仕事をあげましょう。このこたつ机、不用品って紙貼って粗大ごみ置き場にお願い」
父さんにそう言われたこたつ机。
「こんな重たいもん、一人で?」
「天板持ってみ」
「ん、あ、意外に軽い」
「足と天板別々に往復しておいで、任せた」
ふわっと、予想して込めた力が余って空を切る。見えた裏っ側が。
「なん、この裏っ側、ケバケバの緑やん」
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