2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
3.麻雀用は意外とポピュラー、スカートめくる側は楽しい
「それは麻雀卓代わりになるんやで。家族麻雀楽しかったなー。うちは夏美と二人やからな」
「ばあちゃん、じいちゃん、父さん、亜矢子叔母さん。このうちで賑やかに麻雀やったりしてたんやね」
「そうやなー、って、おセンチに感傷に浸ってたら進まんから」
「ほーい。広告の裏に、不、用、品、と」
私はマッキー極細で書く。横目で見た父さんは何か言いたそうだったけど、黙って作業を続けた。セロテープで天板の表っ側に貼り付けて。
「じゃぁ、ちょっと行ってくる」
「きぃつけて、早うおかえり」
「あい」
軽トラの荷台に負けず劣らず雨風に錆びついた門扉を抜けて、角のアパートに入っていく路地手前。電信柱の横。粗大ゴミ置き場には、先客の勉強机が引きだし一個だけ残されて置かれていた。キョロキョロと私、見渡してから、スーッと。だって、一番上の引きだしやから、中身見えなかったし。気になったら行動あるのみやしさ。
「なんや、空っぽ。つまんな。覚悟を返しておくれ」
なんて、ぶつぶつ言ってから天板を取りに戻る。
「おかえり」
「まだ!」
なるべく場所にかさばらないように立てかけたこたつの足に、天板も添えて、帰ろうとした。その時。背中に声をかけられた。え、人の気配はなかったよ。
「これ、もらっていってもいいですか?」
真っ白い清潔そうなシャツを一番上までボタン止めてたから、私は心に軽めの警報を鳴らす。見せない相手は要警戒。
「こたつ机? ですか?」
声に空気を含めないように、圧を感じてもらいたい。
「うん。そう。これ」
その男の人は私よりもこたつ机の返事を待つように左の掌でこたつ机の天板を擦った。妙なほどに雰囲気が柔らかく、悪い人ではないのかもしれないとは思ったけど、人のゴミを欲しがる人はまだ要警戒。
「でもこれ」
私はまだ身内なんだと、捨てたこたつ机に寄り添って言う。
「電源コードも何もないんです」
「わかってますよ。古いからね。それはいいの」
言葉から方言を感じない。見せない男は、要警戒だ。
「それにね、ホラっ」
私は警戒をケバケバ緑に託して、ぺろん。天板をめくって見せる。スカートめくられるのはムカついたけど、めくるのって楽しい。
「こんな変なの、なんですよ!」
「ああ、それは麻雀をするためなんですよ」
知らぬは私ばかりかよ。ちぇ。
最初のコメントを投稿しよう!