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4.陽がさして欠落がばれて
パタン。と、緑のケバケバに若干のすまなさを感じつつも、天板を元に戻した。
「どうするんですか? こんな古いこたつ机。あ、リペアってやつですか? レトロがモダン?」
「いえ。このままです。面白そうだって、思って」
面白そう? 男の人はまた左掌で天板を擦る。
「うん。面白いと思います。もらっていってもいいでしょうか」
もらっていく。もらわれていく。ばあちゃんの笑い皺が天板に見えて、私は決心する。
「あの、私、佐川夏美っていいます。あそこの、佐川道子。先日亡くなった佐川道子の孫なんです。今、父とうちの整理を。あの、お兄さんはどこの、誰ですか?」
見せない男に、私は自分を見せてあげる。これで、どうでるか。こたつ机をあげるか、あげないか。
お兄さん、注意して、リアクションをどうぞ。
「私は木田ツトムといいます。そこのアパートの二階角部屋に、一人で住んでいます。そろそろ晩御飯の買い物に出かけようと、通りすがりました。人様の捨てたものを欲しがるので気味悪いかもしれませんけど、ただ純粋にこのこたつ机が欲しいだけで、それ以外には何もありません」
やっぱりまだ、木田さんは私でなく、こたつに釈明するように話したけど、誠実な情報開示に私は合格の判子をあげる。なのに。
影になっていたゴミ捨て場に陽がさして、私は押してしまった判子に首を絞められる。
お兄さんには、影が、なかった。
「影、ない!」
そのままを声に出してしまった。よっぽど、驚いたんだろう。怖かったんやろう。
しかし、木田さんは驚きもしない。ばれてしまった所得隠しに弁明する落語家の風情もない。
「ええ、この左掌の代わりにあげました。まだ影で良かったですよ。片目とか片足って言われなくてね」
と、逃げも隠れもしない。私は代わりに逃げてもいいですか? あぁでも、木田さんがもらった左の掌が気になってしまって、逃げられへん。
「影で良かった、ですか」
「ええ」
怖いからちょっと、へこませてやろうか。
「私が今、こたつ机の代わりに影をくださいって言ったら?」
「あ、それは困ります」
よし、ちゃんとへこむならいいんです。あげましょう、こたつ机。
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