虹色

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「あ! 雪、見てあっち!」 「どれ?」 「あの背の高い人の隣! 今ボール持った!」 「おー?」 「ちげーよ。どこ見てんのさ」 女子高生の話題なんて、たかが知れている。最近のテレビ番組や芸能人、アーティストの話、SNSの情報、他人の噂話や恋愛事情。 会話の大半がどうでもいいようなくだらない内容で、でも私たちにとってはそれが全てで。学校という狭い檻の中でぬくぬくと育てられている。 特に噂話や恋愛話には分かりやすく左右されるのが女子高生。そしてそれは今日も相変わらずだった。 体育の時間、ネットで区切った隣のコートで行っている男子のバスケを見ながら、私たち女子は盛り上がっていた。 女子は今日はマット運動だったが、まともに行っている人なんて誰一人としていない。先生が最初の方に放送で呼び出されていなくなったのが原因。 みんなマットを布団か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。ぐだぐたと寝そべりながら、男子のバスケの試合を観戦する人が大半だった。かく言う私もその内の一人。 「今座ったじゃん!」 「あーはいはい。やっと見つけた」 「やっぱり虹林彩人、目の保養だよねえ」 友達の早苗の口からさっきから興奮ぎみに飛び出すのは、珍しい名前の同級生。虹色の林に、彩りの人と書いて、ニジバヤシアヤト。 虹に彩りと、苗字と名前のどちらにもカラフルな色彩を示す言葉が含まれていて、いかにも派手で鮮やか。 そして何よりその鮮やかな名前に負けず、外見も人の目を惹き付けてしまうように綺麗で整っていた。名は体を表すというのも案外間違いではないのかもしれない。 まるで芸能人のような騒がれっぷりなのも頷ける。確かに誰が見ても格好いいし、ずっと見ていたくもなる。 知らない人はいないくらい、今やこの学校での有名人だった。この男子の試合だって、彼目当てで見ている女子が山程いる。 「イケメンで、頭が良くて、運動も出来るって、マジで完璧。最高」 「あの子見るたびに世の中不公平だな、って思う」 「そうそう。世の中しょせん顔なんだよ」
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