第一章 新一

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ここに来る前、そう去年まではメーサイプラザと言う山の斜面に転々と並ぶバンブーハウスに住んでいた。 見た目も室内も小汚ないため家賃は格安なのだが、窃盗が多く特に狙われたのが人目の届きにくい山の上の建物だった。 犯人はミャンマー人だ、山の民だ、旅行者だ、ここの従業員だと噂されていたから、ほぼ全員容疑者になる。そのためマイ南京錠は必需品だった。 またそれ以上に俺を悩ませたのが夜な夜な現れるもう1つの侵入者だ。 体長50㎝もある灰色の大トカゲで、昼間は巣穴に帰っているのか姿を隠しているが、暗くなると床下、天井、壁の僅かな隙間を見つけて入ってくる。 穴と言う穴に新聞紙を丸め、その上からガムテープでぐるぐる巻きにふさいでいても、裸電球に集まる虫を求めどこからともなく必ず現れるので、ぐっすり休む事が出来ず、とうとう音をあげ退去した。 それでもガマンガマンで1週間ぐらいいたと思う?その時に実に痛快な青年と知り合った。 彼の名は鈴木新一、勿論仮名。 家々が建ち並ぶ斜面の中腹に、汲み取り式の共同便所とその横にコンクリートの流し台があり、朝夕の洗顔や歯磨き時にバッティングした。  お互い挨拶する事もなく、どちらかと言えば若造のくせに生意気な奴、それが新一にたいしての印象だった。
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