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その新一と今年も偶然再会した。
街中からの帰路、プラザの前の道を歩いていると、山際から「お~い、お~い、伊藤さ~ん」と声がする。
何だろうと立ち止まり、振り向くと高台のレストランの柵から身を乗り出すようにして背の高い男が手招きをするのが見えた。
今にも崩れ落ちそうな茅葺き屋根が陰になり、暗くて顔が見えない。
床板がギシギシ軋む古びた木造の階段を一足一足確かめるように登ると新一がニャけた顔で立っていた。
季節はもう10月だと言うのに「夏休みを利用して来てるンですょ」と新一は笑った。
チエンマイ、チエンライに一月ほどいてメーサイに来たのは3日目だと言う事だった。
「伊藤さんが、まさかメーサイに来てたとは思わなかったですよ。いつからプラザに泊まっているんですか?」と新一が懐かしそうに聞いてきた。
俺は首をふり『今はプラザじゃないよ、奥のメーサイリバーサイドだよ』とこたえる。
「えっ、ウソでしょう。本当ですかあ?あそこ結構高いんじゃないですか?」キーニャオ(ケチ)と思っていた俺がリバーサイドに泊まっているのがよほど意外だったのだろう。
あからさまに疑っているのが、わかるので『じゃあ今から来る?』と新一を部屋に誘った。
「えぇ、今からですか?今日は今から置屋行くんで明日行きます」新一はそう言うとテーブルに置いていたプロテインの入った青いボトルに口をつけた。
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