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帰り道では、早川は予告したとおり、ずっとしゃべり続けた。
「同じ学年の女の子が入ってくれるなんて、嬉しいなー。私も教えるから、一緒にがんばろうね!」
「あー、うん」
(教えるなんて、早川のくせに偉そうに)
「あっ、そうだ、今日はテレビでお笑いグランプリがあるんだよ! 私とっても楽しみにしてるんだ。遥香ちゃんはお笑い、好き?」
「いや、私は見ないね……」
(そんなバカバカしいの、見るわけないでしょ)
「えー、見たらいいのに。面白いよ」
「うーん……」
早川が何を話しかけても、遥香はうなる以外の返事をほとんどしないように心掛けた。そうすれば早川が会話を諦めてくれると目論んだからだ。思った通り、さすがの早川も話のネタが尽きたようで、二人の間には沈黙が下りるようになった。
早川の話に煩わされないで済むようになると、遥香はお腹がいつもと違う感じなのに気が付いた。初めてのジムで緊張したり、早川にイライラするのをこらえていたから、胃の調子が悪くなったのかもしれない。そんなことを考えていたときだった。早川が再び口を開いた。
「遥香ちゃんさぁ、うちらのこと、バカだと思ってるでしょ」
先ほどまでの浮ついた調子とガラッと変わり、低い声だった。いつも優しい担任が、本気で怒ったときの雰囲気に似ていた。
「え?」
突然の早川の変化に驚き、それから気づかれていないと思っていた本心を言い当てられたことに驚き、遥香は思わず立ち止まった。
「見てたらわかるよ。いつもクールぶって、クラスで頑張ってるみんなを鼻で笑ってさ。人間関係とか面倒ごとから一人だけ逃げて。そうやってラクして、優越感に浸ってるけど、裸の王様と同じだよ。わかってる? 遥香ちゃんこそ、みんなからバカにされてるよ。気づいてないでしょ」
唇が震える。それを抑えきれず、遥香は手で覆い隠そうとした。その手も震えていた。足もガクガクして、膝からくずおれてしまいそうなのを、なんとかバランスを保つ。いつの間にかうつむいていた視界の端に、早川が踵を返して去っていくのが見えた。
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