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「遥香ちゃん、まだ2回目なのに、上達すごく早いね! このぶんだと、私もすぐ追い越されちゃいそう。頑張らなきゃ!」
1週間が経ち、またジムの曜日がめぐってきた。早川はまた「一緒に帰ろう」と遥香を誘い、先週の不穏な帰り道のことなど忘れてしまったかのように、気さくに話しかけて来た。
遥香は、どうせ社交辞令だろうと「うん……」とぶっきらぼうな返事をしかけた。しかけて、(あっ、これじゃ、また『バカにしてる』って言われるかも)と気づき、引っ込める。
「ありがとう。でも早川さんに比べたら、まだまだだよ」
遥香が頭をフル回転させて、やっと捻りだした返答に、早川は即座に返事をした。
「えー、そんなことないよ。はやく遥香ちゃんとタイム競いたいって、わたし楽しみにしてるんだから」
早川は当然のように、友達同士のような会話を続けた。そのことに遥香は拍子抜けした。もっと嫌味を言われたり、冷たい態度を取られることを覚悟していたのに。早川の変わらない態度は、練習中も同じだった。前回の、遥香にとって初めての練習のときと同じように、懇切丁寧に世話を焼いてくれたのだった。
「早川さんってさ、教え方、うまいよね」
遥香の口から天敵である早川を褒める言葉がポロリと出たのも、それを強く実感していたからだった。
「遥香ちゃんの筋がいいからだよ。なんでもすぐに飲み込んじゃうもん。さすが遥香ちゃんは、頭いいなぁ」
そう褒め返す早川に、遥香は言おうとして、やめて、でもやっぱり言おうと決め、口を開いた。
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