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「遥香ちゃんさぁ、いい加減にしなよ」 麻里はハァ、とため息をついて遥香に向き直った。 「本気で向き合おうともせずに、他人をバカにしてばっかり。そういうの、かっこ悪いよ」 遥香は言い返そうとしたけれど、言葉が出なかった。言葉というより、頭が回らない。一番の、そして唯一の親友から放たれた、思いがけない冷たい言葉。その衝撃に、ただ固まるしかなかった。まるで凍る寸前の池に突き落とされたかのように、手足も思考もマヒしてしまって、自分の体じゃないようだった。 呆然として何も反応できない遥香に呆れたのだろうか。麻里はまたハァとため息をつき、黙って立ち去っていった。 「私のことを分かってくれるのは、麻里ちゃんだけ」 気恥ずかしくて口に出したことはなかった。けれど遥香は麻里と話すといつも、それを実感していた。麻里と知り合って、まだ半年そこそこだけれど、10年一緒にいる母親よりも、幼稚園からの知り合いよりも、麻里こそが遥香の気持ち、考え、全てを分かっていると感じていた。あの日、遥香が初めて麻里と言葉を交わした日に、すでに麻里は遥香のことをよく理解していた。
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