0人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな麻里が、なぜ自分に話しかけるのか分からない。遥香は警戒していたが、麻里とお喋りしているうちに、思いがけず楽しいということに気が付いた。麻里の言った通り、似た者同士で気が合ったのだろう。クラブの日は毎日、様々なことを語り合うようになった。
「麻里ちゃんは、なんでも好きな習い事ができるとしたら、何がしたい?」
「習い事? そうねえ。プログラミング教室に行ってみたいわ」
「プログラミング? すごい。麻里ちゃん、そういうの得意なの?」
「得意じゃないわよ。得意じゃないから習いたいの。ほら、アプリとか作って、売ってみたいじゃない」
「すごいなぁ、麻里ちゃんは。そんな風に思えるなんて」
「遥香ちゃんは、いま何か習い事やってるの?」
「色々やってるよ」指折りながら挙げていく。「毎日クラブが終わってから、月曜と木曜は塾でしょ、火曜はスイミングでしょ、水曜はお習字、金曜はピアノ、で土曜はバレエ」
「へぇ、たくさんやってるのね。楽しい?」
「楽しくはないよ」
遥香は「げぇっ」と言わんばかりに顔をしかめた。
「あら、楽しくないのに、どうして習ってるの?」
「どうしてって、学校の勉強と同じだよ。楽しくないけど、やらなきゃいけないから、やってるだけ」
「もったいない」
麻里は背もたれに重心を移して、腕を組んだ。口には出さないが「あきれた」と心の中で言っているのが、ありありと伝わった。
「もったいない? 何が?」
麻里の反応は遥香には心底意外だった。
「だってそうでしょ。お金だってもったいないし、時間だってそうだわ。楽しくないことに費やすなんて。もっと他に、本当に自分がやりたいことに使うべきよ」
「そんなこと言ったって、お母さんがやれって言うんだもん」
遥香は唇を突き出し、ブーっと鳴らした。
「もっと他に、やりたいことないの? お母さんがやらせたいことじゃなくて、遥香ちゃんが本当にやりたいこと」
麻里にじっと見つめられる。麻里の強い瞳にとらえられると、目をそらせない。言ってしまおうか。母親にも言っていないけれど、唯一の大親友の麻里になら言ってもいい。そう思った刹那、ポロリと言葉が漏れていた。
「本当は、ボルダリングをやりたいの」
最初のコメントを投稿しよう!