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そんな麻里が、なぜ自分に話しかけるのか分からない。遥香は警戒していたが、麻里とお喋りしているうちに、思いがけず楽しいということに気が付いた。麻里の言った通り、似た者同士で気が合ったのだろう。クラブの日は毎日、様々なことを語り合うようになった。 「麻里ちゃんは、なんでも好きな習い事ができるとしたら、何がしたい?」 「習い事? そうねえ。プログラミング教室に行ってみたいわ」 「プログラミング? すごい。麻里ちゃん、そういうの得意なの?」 「得意じゃないわよ。得意じゃないから習いたいの。ほら、アプリとか作って、売ってみたいじゃない」 「すごいなぁ、麻里ちゃんは。そんな風に思えるなんて」 「遥香ちゃんは、いま何か習い事やってるの?」 「色々やってるよ」指折りながら挙げていく。「毎日クラブが終わってから、月曜と木曜は塾でしょ、火曜はスイミングでしょ、水曜はお習字、金曜はピアノ、で土曜はバレエ」 「へぇ、たくさんやってるのね。楽しい?」 「楽しくはないよ」 遥香は「げぇっ」と言わんばかりに顔をしかめた。 「あら、楽しくないのに、どうして習ってるの?」 「どうしてって、学校の勉強と同じだよ。楽しくないけど、やらなきゃいけないから、やってるだけ」 「もったいない」 麻里は背もたれに重心を移して、腕を組んだ。口には出さないが「あきれた」と心の中で言っているのが、ありありと伝わった。 「もったいない? 何が?」 麻里の反応は遥香には心底意外だった。 「だってそうでしょ。お金だってもったいないし、時間だってそうだわ。楽しくないことに費やすなんて。もっと他に、本当に自分がやりたいことに使うべきよ」 「そんなこと言ったって、お母さんがやれって言うんだもん」 遥香は唇を突き出し、ブーっと鳴らした。 「もっと他に、やりたいことないの? お母さんがやらせたいことじゃなくて、遥香ちゃんが本当にやりたいこと」 麻里にじっと見つめられる。麻里の強い瞳にとらえられると、目をそらせない。言ってしまおうか。母親にも言っていないけれど、唯一の大親友の麻里になら言ってもいい。そう思った刹那、ポロリと言葉が漏れていた。 「本当は、ボルダリングをやりたいの」
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