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うっかり零してしまった最初の一言は、まるでダムの壁にあいた小さな亀裂だった。その小さな亀裂から、壁のむこうに溜めこまれた水が勢いよく吹き出し、壁を壊して中身を全部ぶちまける。
「ボルダリングって、壁を登るスポーツなんだけどね。ピアノの帰りに、ボルダリングのジムを見つけたの。そこの入り口に、小学生でもできるボルダリング教室の張り紙がしてあったの。入り口はガラスのドアで、中をのぞいて見たら、カラフルな石がついた壁をお兄さんがヒョイヒョイって登ってたの。すごくかっこよかった! 私もあんな風になりたいって、思ったの」
息継ぎすら惜しくて、一息にまくしたてたから、胸が苦しくなった。最後まで言いきると、走り終わった後のように、ハアハアと肩が大きく動いていた。
言っちゃった。言ってしまった。ボルダリングがしたいなんて言ったら、母親はきっと反対するだろう。麻里は、麻里はどう思うだろうか。
すがるように麻里を見つめ返す。
「いいじゃん。お母さんにも、そのまんま言ってみな」
口の端をニッと上げた麻里が、バンと遥香の背中を叩いた。
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