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早川は、遥香が最も苦手なタイプだった。遥香がいつも「子供っぽい」とバカにしているクラスメイトの中心には、必ず早川がいた。早川は少女漫画の主人公のような女子小学生だった。胸に大きなロゴがプリントされた服を着て、フリルで広がったスカートをはいている。周りの人間すべてを友達扱いして、「元気」や「仲良し」の押し売りをしている、と遥香は感じていた。早川に関わると、自分まで「子供っぽくてバカな小学生」にされてしまう。だから学校ではできるだけ早川を避けてきたのだ。 「今日から遥香ちゃんも一緒にボルダリングをやります。初めてで、わからないこともあると思うから、みんな、色々教えてあげね」 コーチが遥香を紹介すると、集まった5~6人の子供たちが一斉に「ハイ」と返事をした。特に大きく頭を振って返事をしたのが早川だ。忌々しいことに、遥香が嫌っている早川は、このジムに何年も前から通っているそうだ。それだけに、早川は遥香が知らないことを色々と知っている。ボルダリングも、初心者の遥香より早川のほうが当然上手い。 「遥香ちゃん、違うよ。その道具は、こっちに片付けるんだよ」 「遥香ちゃん、そこはもっと、こうしたほうが登りやすいよ」 このジムでは先輩にあたる早川は、頻繁に遥香に声をかけてきた。子供っぽくてバカだと見下している早川から先輩目線で声をかけられるたび、遥香は腹の底がぐわっと変な感触になった。はらわたが煮えくり返っているのかもしれない。「うるさい」と言い返しそうになるのを我慢するために、何度も奥歯をギュッと噛みしめた。
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