雪原に紅一点

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  「拷問を受けたのね。できるだけの手当てはするけど、大きな病院で診てもらった方がいい」 「宇宙一の美人に裸を見られるなんて光栄だよ。あんた、ミス火星のミルクティだろ」 「そうよ」  ミルクティは手当にとりかかった。消毒薬が沁みるのか男はうめいた。 「手なれたもんだな。ありがとう、感謝するよ。地球人が<雪>を運んできたという噂が広まってね。おれたち地球村の人間もお相伴にあずかりたくてさ。なあ、分けてくれないか」 「わけありね。事情は?」  若い男の名はイサムといった。  惑星の炎熱エネルギーを再利用する千人規模のプロジェクトチームの一員だった。当初は順調に見えた事業も、ステーン一族が法外な借地代を要求してきたことによって暗転した。ステーン一族は、中央政府でさえ尻ごみする冷酷な非合法組織だった。  プロジェクトチームが卑劣な条件を断ると、彼らは地球人用の宇宙船や居住区をことごとく破壊した。チームは政府軍による警護を依頼したものの、その軍は脆弱だった。 「抵抗した仲間たちはみんな殺されたり、俺みたいにひどい拷問にあった。今、生き残っているのは百八十三人だ。小さなシェルターがあって、そこで共同生活をしているんだ。大人しくしていれば、犠牲者が少なくてすむからね」 「犠牲者が少なくてすむとは?」 「あいつらは地球人をゲームみたいにして殺戮を楽しむんだよ。じっとしていれば、連中はハントしに来ないけど、たまに拉致されていなくなる人もいる」  イサムは暗い目つきでミルクティを眺めた。 「あんたの噂は聞いてるよ。ナンカン・アールって男を探してるそうじゃないか。恋人かい、それとも敵(かたき)かい?」 「あたしは<雪>をステーンたちに渡す。ナンカンの行き先を聞く約束になっている。それだけだ」 「あんた、おめでたいよ。あいつらがそんな約束を守ると思うかい?」 「いいえ。嘘だったら始末する。それがあたしのやり方なの」 「なあ、嘘でなくても始末できないかな」  イサムは突然思いついたように、顔を輝かせた。 「あんたにいくらでも協力するから、あいつらを片付けられないか」 「考えておくわ。薬はあげるから、もう行って」
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