雪原に紅一点

4/12
前へ
/12ページ
次へ
   2  ダインシティはあらゆる意味において危険な聖域でもあった。  惑星マ―キュラソンの中央政府でさえ、お手上げの非合法地帯である。空港の検疫担当官がミルクティの武装を見ても咎めなかったのは、それだけ危険な場所であることを示唆していた。  10車軸の連結型輸送車は地響きをまき散らしながら、宇宙空港をあとにした。  地上から3メートルの制御室にいるのはミルクティだった。無造作に計器盤を操りながら、食事をとる。高濃度栄養の錠剤を噛みながら、ミネラル水を飲んで、それで終了だ。いつかまともな物が食べたいな、かすかに口元が動いた時だけ、少女らしいあどけなさがのぞいた。  陸路を使うため、目的地まで時間がかかりそうだ。 ミルクティは自動操縦に切り替えると、座席を倒して眼を閉じた。  浅い眠りは来訪者を知らせる警報音で覚めた。  ミルクティは武器と気候対応代謝機能つきのスーツを点検してから地上に降りた。  制御室内は快適に温度調整がされているが、外は火傷しそうな高温と粘りつくような湿気の世界だった。    彼らは一様に体躯が大きかった。身長も体重も地球人の三倍はゆうに越えている。ガスの炎のような太陽が、裸同然の彼らの肌を青く染めていた。  頭髪のないのっぺりした風貌の男が巨大な車両を一瞥すると、空洞のような口を開いた。 「なんともでかい運搬貨物車だな。ブツは持ってきたか」 「お望みの雪を運んで来た」 「けっこう。おれは、ステーン。そっちの男はイエン」  彼らは自己紹介したが、ミルクティは興味なそうに話題を変えた。 「あたしは人探しをしている。名前はナンカン・アール。ここに来れば、積み荷と引き換えに教えてもらえるということだった」 「ダインシティの住人がそんな約束を守ると思うか、ミス火星・ミルクティ」  ステーンの青い顔が若い女を見下ろした。 「では取引は中止だ」  18歳の少女は一瞬のうちに腰から分子破壊銃を抜いていた。銃口は半円を描きながら、ステーンをはじめとする手下たちに狙いをつけている。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加