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ダインシティはあらゆる意味において危険な聖域でもあった。
惑星マ―キュラソンの中央政府でさえ、お手上げの非合法地帯である。空港の検疫担当官がミルクティの武装を見ても咎めなかったのは、それだけ危険な場所であることを示唆していた。
10車軸の連結型輸送車は地響きをまき散らしながら、宇宙空港をあとにした。
地上から3メートルの制御室にいるのはミルクティだった。無造作に計器盤を操りながら、食事をとる。高濃度栄養の錠剤を噛みながら、ミネラル水を飲んで、それで終了だ。いつかまともな物が食べたいな、かすかに口元が動いた時だけ、少女らしいあどけなさがのぞいた。
陸路を使うため、目的地まで時間がかかりそうだ。
ミルクティは自動操縦に切り替えると、座席を倒して眼を閉じた。
浅い眠りは来訪者を知らせる警報音で覚めた。
ミルクティは武器と気候対応代謝機能つきのスーツを点検してから地上に降りた。
制御室内は快適に温度調整がされているが、外は火傷しそうな高温と粘りつくような湿気の世界だった。
彼らは一様に体躯が大きかった。身長も体重も地球人の三倍はゆうに越えている。ガスの炎のような太陽が、裸同然の彼らの肌を青く染めていた。
頭髪のないのっぺりした風貌の男が巨大な車両を一瞥すると、空洞のような口を開いた。
「なんともでかい運搬貨物車だな。ブツは持ってきたか」
「お望みの雪を運んで来た」
「けっこう。おれは、ステーン。そっちの男はイエン」
彼らは自己紹介したが、ミルクティは興味なそうに話題を変えた。
「あたしは人探しをしている。名前はナンカン・アール。ここに来れば、積み荷と引き換えに教えてもらえるということだった」
「ダインシティの住人がそんな約束を守ると思うか、ミス火星・ミルクティ」
ステーンの青い顔が若い女を見下ろした。
「では取引は中止だ」
18歳の少女は一瞬のうちに腰から分子破壊銃を抜いていた。銃口は半円を描きながら、ステーンをはじめとする手下たちに狙いをつけている。
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