雪原に紅一点

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  3  マ―キュラソン人の工事車両が<雪蔵>ドームの建設を開始した。制御室の監視映像のスピーカーから機械の操作音と指示を出す声が聞こえる。  順調のようだ。  ミルクティは監視映像を眺めながら、温くなったミネラル水を口に含むと、静かに眼を閉じた。網膜の奥にナンカン・アールの浅黒い顔が浮かぶ。  地球太陽暦2700年代半ば。  戦争孤児だった彼女を救ってくれたのは、連合軍にも抵抗軍にも属さない傭兵集団だった。幼い少女の面倒を見てくれたのがナンカン・アール。少女の髪がミルクティ色だったからからミルクティ、そのまま定着してしまった。彼女自身もそのニックネームが気にいっている。戦争が終結すると傭兵集団は収監された。ナンカンも遠くの辺境星域へ連行されてしまった。十二歳の時である  にわかに監視映像が騒がしくなった。  画像を拡大した。小競り合いのようだ。大柄なマ―キュラソン人が一人の男を取り囲んで、殴る蹴るの暴行中だった。出血もしているようだが、   「このおたんこなす!ちょっとぐれえ、いいじゃねえかよ!」  スピーカーから地球独特のなまった発音が聞こえた時、ミルクティは思わず身をのりだした。画面を凝視する。  地球人だ。しかもまだ若い男である。強烈な太陽光線から身をまもるためなのか、全身を遮蔽スーツでおおっているが、まぎれもなく地球人体型だった。  どうしてこんな場所に?  さすがに同胞を無視するわけにはいかない。  ミルクティはは緊急救護用の転送アームの照準を合わせた。輸送車に装備されている防御銃も作動させる。いかにも場慣れしている動きで淀みがない。  微かな震動が運転台に伝わった。  監視画像の中から地球人の姿が消えた。転送完了のチャイムが運転室内に鳴り響く。  転送室のドアが開いて、血だらけの男が出てきた。少年のようにあどけない顔立ちの男である。何が起こったのかわからないらしく、きょろきょろと見回している。  そこに自分と同い年くらいの女がいて、安堵したのか、その場に座り込んでしまった。  ミルクティは表情を崩さなかった。黙ったまま救急キットの蓋をあけ、男を裸にした。戦士と呼ぶには貧弱な骨格をしているが、彼女が驚いたのは、全身に刻まれた傷の多さだった。今しがたの生傷の他にも、無数の内出血がある。臍の下あたりには裂傷の跡が赤紫に腫れあがっていた。
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