1.来店

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 その事務所は、ファッションビルが立ち並ぶ繁華街のど真ん中にあった。デジタルサイネージや華やかなディスプレイが並び、店先で店員がチラシやらサンプルを配ったりする間に、ひっそりと佇む古いビル。視界には入っているはずだが、道行く人々は見向きもしない。  こんなところに来る客がいるのだろうか?窓から通りを眺めていた水島亮太は、ぼんやりと考えた。 「人ってやつは、知覚しないものは認識できないからね」水島に背を向け、パソコン画面で何かを読んでいた小早川公平は、振り返りもせずにいった。 「え?」水島は自分の考えが読まれたのかと、思わず聞き返した。 「自分の世界にないものは存在しない、とある哲学者がいっている。僕は彼の意見に賛成だ」  また意味の分からないことをいっている、と思った水島は「ふーん、そうなんだ」と適当に流した。 「でも自分の中にあるものは、どこにあっても見つけるものだよ」 「なんだ、それ。スピリチュアルか?」  ふん、と小早川は鼻で笑った。面倒なのだろう、小早川は言葉の意味をいちいち説明しない。水島は小早川の性格を知っているし、どちらにしても興味が持てる話でもなさそうなので、それ以上聞かないことにした。
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