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隣の部屋で水島はモニターを見守った。事務所内に設置された複数のカメラで、2人の立ち位置から表情まで読み取ることができる。女はやや緊張した面持で小早川を見ていた。確かに、こんな変な所に来るには、勇気がいるだろう。
「あの……、私、瀬戸八重子と申します。今回は……」
続けようとする女を、小早川は制止した。
「瀬戸さん、ご来店ありがとうございます。転職をご希望されているということで、よろしいですか?」
「はい」
「では、詳しい話はさておき、転職までの流れについて、説明させていただくことにしましょう。うちは少々変わっていますので、瀬戸さんの話を聞く前の方が良いかと。ご破算になってしまうと、お互いに時間がもったいないですから」
「え……、ええ。そうですね」小早川のぶしつけな物言いにひるみながらも、八重子は素直に従った。
「ありがとうございます。ではコーヒーを入れますので、少々お待ち下さい」
のんびりしたものだ。隣室の水島はあきれた。コーヒーを入れるって、豆から挽くつもりだ。
「今日は珍しく暖かいですね」なんて、どうでもいい天気の話を始める小早川に、八重子は律儀に返事をしていたが、明らかに戸惑っていた。もしかして、リラックスさせるのが目的だろうか。あまり効果が出ているようには見えないのだが。
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