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手動のコーヒーミルで豆を挽き、たっぷりと時間をかけてコーヒーを落とすと、事務所内に香ばしい匂いが漂った。ドアの隙間から伝って水島にもそれが分かった。
「さ、どうぞ」と八重子にコーヒーをすすめ、一口飲んだのを見届け、水島はようやく本題に入った。
「うちの最大の特徴は、長期的な視点に立って、お客様にとって本当に合った仕事先を見つけることです。そのため、よそのエージェントとは進め方が違います。
まずあなたの履歴書や職務経歴書を拝見し、希望職種もお聞きします。この辺りは、ほかと同じです。重要なのはここからです。
あなたの生い立ち、人生の転換期、楽しかったこと、悲しかったこと、つらかったこと――また親兄弟や友人の話まで、あなたのこれまでの人生全てを知りたいのです。とはいえ、知られたくないこともあるでしょう。出せる情報だけで構いません。ただ、隠しごとがあると、私にとって少々つらい仕事になります」八重子の表情を注意深く観察する小早川。
「……はあ」八重子は呆気にとられた。
「はい」小早川はにこりとした。
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