1.来店

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「3か月経って、それでもご満足いただけない場合は、慰謝料としてそこで働いた給料分をこちらからもお支払いします。会社からも3か月分の給料は普通に貰えますので、お客様には2倍の額が入るということです」 先ほどより丁寧にゆっくりと話した。  八重子は凍ったように一点を見つめ、沈黙が流れた。 エアコンの音以外はなく、自分の音が響くとまずい、と水島は身体をこわばらせた。八重子は怒って帰るんじゃないだろうか、と心配していた。  実際は1分程だっただろうが、ずいぶん時間が流れたように感じた。しばらくして八重子は口を開いた。「はい……。概要は分かりました。本当に、変わっていますね」とりあえず、受け入れたようだ。 「よく言われます。では、本日は以上です。職務経歴書と履歴書など、諸々について書いていただくテンプレートは、こちらのURLにあります。ご自宅のパソコンで入力して送信してください。確認できましたら、またご連絡させていただきます」  いくつか質問したものの、言葉少なに去っていく八重子を見送ると、水島は部屋に戻った。 「彼女、二度と来ないんじゃない?」こんなふざけた会社、という言葉を水島は飲み込んだ。 「問題ないよ。うちの客は、ここにたどり着くまでにいろんな手段を使って転職活動しているし、何なら自力でそれなりの仕事を探せる人たちだ。それでも、ここを見つけて自分で選んで来た。その時点で決まっているんだよ」
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