第1章

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 彼女は別の次元にあるとされるアイテムボックスから一本の剣を取りだし、僕に投げる。大地が振動し、からだをかすかに右にずらして、それをよけた。軌道を見極め達人のように動いたのではなく、その程度しか動けないほど追い詰められた。 「あ、あぶないな! 洒落にならないなイスカは、おいイスカ!」 「だって、ユーリったら私のこと無視するんだもん」 「無視じゃなくてね、考え事をね」 「せっかく、こたつ遺跡についたから写真取ってほしかったのに」  荘厳あふれる遺跡郡の中。  巨大なライオンがクチ開いたかのような石像のお口が、この神殿の、というかダンジョンの入り口だ。その手前に、誰が残したのか、こたつが置いてあった。 「人間って分からないよね。あっちじゃ、こたつがブームなんでしょ? 前世代的な発想というか何というか」  と、彼女はケラケラ笑いながらこたつに入る。説得力はない。  きみも気に入ってるじゃん。 「時代は関係ないよ、イスカ。人間は時代が変われど、基本は関係ないんだ。だから、行動経済学なんてのがある。NPCとか人間とかそんな垣根はほんとはないんよ。彼らは己のテンプレートを自覚しておらず、それを教養と高尚にして数少ない者しか知ってない事実に満足してるだけの存在なんだね」 「あ、うん。一番ひどいことを言ってるのは、ユーリだね」  僕もこたつに入る。  ぬくぬくと、足を温めてくれるこたつ。  閉園間近のイマジンワールドで、突如として、こたつがブームになった。  このゲームはプレイヤーが所持してるアイテムをどこにでも置ける。アイテムからプレイヤーが離れると所有権が時間が経つにつれて減少するが、このこたつも、もう誰かの所有物ではなく公共物として扱われる。置いた理由は分からない。ただ、噂程度の話でしかないが、現実世界――ここにいるプレイヤーたちが存在する本当の世界とやらでは、こたつがブームらしいんだと。  あっちの世界は、色々と大変らしい。
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