第1章

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 あぁ、で、最近こたつとやらが、このゲーム世界のいろんなところに置かれるが、その置かれたこたつとやらを、僕らは勝手に『こたつ遺跡』と呼んでる。  遺跡とは、終わった文明のことだ。  建物だとか、歴史だとかじゃない。一つの文明が終わったことを象徴してる、そのようなものが、遺跡だと考える。  だから、このこたつも遺跡なのだと考える。  あっちの世界では科学を制限しようと動いてるらしい。宗教と反科学思想が融合したのがまずかったか、加速したのか、このままでは人の生活が脅かされる、それよりも大事なのは我々にあるのではないかと宗教家が叫び、それによって全世界で機械が捨てられる運動があるようだ。  ま、まだあくまで一部らしいけど、年々とその数は増えているらしい。  五年後や十年後、二十年後には、またこん棒持って、マンモス狩りにもどろうとするんじゃないか。マンモスが絶滅したのを忘れて。  NPCの僕らからしたら、愚かに見える。 「ねえ、私たちってさ。何歳くらいだっけ」 「二歳じゃないか。NPCの歳なんてあってないようなもんだけど」 「たった二年。正確には二年と半年、それが私たちの命なんだよね」 「享年、二歳半。確かに短い命だね」 「終わろうとしてる世界、まだ始まったばかりの私たち。……ほんと、ふざけてる」  こたつで、ぬくぬくしてるだけじゃなかった。  イスカは、イスカなりに、不満を抱いているようだ。  僕らは、記録係を担当してる。  このオンラインVRゲームは、終わろうとしてるが、その前にあらゆるエリアでプレイヤーたちの残した軌跡を集めるのが僕らの仕事だ。  どうやら、彼らの世界ではそのような情報は高値で取引されるらしい。なんでも、ビッグデータがどうたらこうたら。何気ないプレイヤーの一つの行動も、大きな視点で見れば、金儲けの手段になるんだとか。  そして、一部の人だけが儲けて、それ以外の人は疲弊し、貧困になる。  1  誰もが貧しい時代なのに、高いこたつとやらは売れてるらしい。  自分だけはその蟻地獄にいないという幻想が好きなのか。それとも、食費がままならなくても、これだけはちゃんと確保したいという最後の願いなのか、高そうなこたつは売れている。  それは、このゲーム世界でも同じだ。
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