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人間たちのいる世界では、『もうこの世界は終わりを迎えようとしてる』という終末思想も流行ってるらしい。
笑わせる。
お前らは、何一つ終わってないじゃないか。少なくても、僕らと比べたら。
「おい、ユーリよ。ユーリちゃんよ」
「変な呼び方するなよ、イスカ。一体どうし――」
彼女は、僕の手をにぎる。
「えへへ、好きだよ。ユーリ」
朗らかな笑みを浮かべるイスカ。
僕には、心地よい温かさを感じる唯一のものだが。同時に、今は少しだけ悲しみも帯びていた。
この笑顔も、いつかは見られなくなる。
この笑顔をするこの子といっしょに、消えてなくなる。この顔を見る、僕の存在も。
「知ってるよ、イスカ」
「おや、何だ知ってたのかユーリ。ユーリは物知りだな」
「でも、きみも知ってるだろ」
「あぁ、ユーリは私のこと大好きだよね。デへへ」
「その笑い方は、意地汚いよ」
でも、だからって何もかもが悔しいわけじゃない。
僕は、プレイヤーの残した思い出を集めるために産み出されたキャラクターだが、彼女といっしょにいるのも、好きになってるのも、制作者たちの思惑のひとつだが、それでもいいさ。彼女を好きなのは変わらない。
何もかもが終わった状態で始まったが、この気持ちだけは終わらせるつもりはない。
「ねぇ、相合い傘を書こうよ」
「僕らはプレイヤーじゃないよ」
「いいじゃない、私ら無給で無休なブラックバイトだよ。これぐらいしたってばちは当たらないよ」
と、彼女はこたつに書かれた相合い傘の横に、僕らの相合い傘を書いた。
これも、制作者に報告してやろうか。名前だけ変えて、混ぜてしまってもいい。
そうすれが、彼らの目には他の人間と同じように、僕らの思い出も報告書としてまとめられる。
その書類の中にだけ、僕らの思い出は記録される。ざまーみろ。ひとつだけ、終わらないものがある。それを誰かが見れば、まだどこかで記憶は始まる。
僕は、そんな幻想を夢見た。
あぁ、これがこたつの世紀、時代なのかな。
こんなものでも、たった一つの希望なのだ。
了
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