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昨日の夜からその予兆はあった。 空に輝く星々。 空気が凍てつき既に学校帰りの時から寒かった。 今朝まで続いた晴天に放射冷却現象が追い討ちを掛ける。 隣を流れる川面からは湯気。 つまりは空気より川の水の方が温かい証拠。 周りに生えてる木には、その湯気が結晶となってくっつき陽に反射してキラキラ輝いていた。 「さっぶ……」 鼻毛も凍るとは正にこんな日。 鼻で息をすると鼻の穴がつんと引き締まるようなそんな朝。 『今朝はマイナス十七度まで冷え込み……』 ニュースで言っていたそれを聞かなきゃ良かった。 聞けば更に寒さが増す。 身を縮ませながら歩いても寒いのは同じ。 寒さに雪が締まり、雪を踏む度にきゅっきゅっと軋む音が聞こえる。 そんな中を俺は一人黙々と歩く。 「面倒くせえなぁ……」 つい、口から漏れる。 学校に行きたくない。 最近何もかもうまくいかない。 部活では監督に怒られてばっかだし、この前のテストの成績も悪かった。 親友の浩輝とは昨日喧嘩したばかりだ。 葉の落ちたプラタナス並木の端を通りながら、重い足取りで学校に向かう。 出来ることならこのまま、回れ右して帰りたい。 ふと目線を上げると、前を歩くのは田中美来。 クラスの誰かとつるむわけでもなくいつも一人でいることの方が多い。 そんな彼女に、その時なぜ目がいったのかは分からない。 ただ、彼女のその姿をぼんやりと目が追う。 ……? 突然、彼女が何かに気付いたように足を止めた。 下をじっと見詰めて、それからやがて屈み込む。 止まった彼女との距離が少しずつ縮まっていく。 それでもまだ目は追っていた。 何かを木の枝にぶら下げている。 ? 追い抜き様ちらりと窺うと、手にはイルカのキーホルダー。 どうやらそれを拾って、持ち主の手に戻るようにと引っ掛けたらしい。 戻ると良いな、と俺の口元も僅かに緩んだ。
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