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「ふざけないで!」
鋭い声が耳に飛び込んできた。ビルとビルに挟まれた路地の奥で、セーラー服の女の子が、学ランを着た男の子たちに囲まれている。彼女の声を通行人たちは聞いたようだったけれど、誰も振り向かない。セーラー服の少女は胸ぐらを掴まれ、壁に押しつけられているせいか、身動きができないようだった。私には、彼女を助ける義務がある、と思った。けれど、ただ助けを呼ぶだけじゃ藪蛇になりそうだった。一触即発の雰囲気に私はとっさに路地の中にあった看板と看板の間に身を隠して、叫んだ。
「ああ、おまわりさん、こっちです、こっちです。若い人たちが女の子に乱暴しようとしていたんです!」
中学時代に演劇部で鍛えた老婆の作り声で、騒ぎ立てる。恥ずかしかったけれど、この場所なら学ランの集団からも、繁華街の通行人からも見えないだろう、と思って精一杯叫んだ。途端に学ランの学生たちはうろたえだして、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
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