きこえない

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 T市の繁華街を歩く。学校も終わって、友達とクレープを食べて、晩御飯食べられるかしら、と考えていた。ゲームセンターがいくつもあるこの通りは夕方くらいからだんだん空気が澱んでくる。冬なのにアロハシャツのおじさんも時折通るし、外国人がウロウロしはじめる。制服を着たままの不良崩れも現れだす。本物の不良は暗い路地でじっと通行人を見つめている。私が友達にひっついて歩いていると、友達がその不良崩れたちに声をかける。「久しぶりじゃーん」「遊んでこーよ」不良崩れたちは言う。友達は嬉しそうに私の方を振り返る。 「ね、律子はどうする?」  私の答えは決まっている。 「ウチ、門限厳しいからやめとくよ。ごめんね」  胸の前で手を合わせて精一杯のごめんなさいのポーズをとる。ああ、私も里見先輩と大して変わらないなぁ、と気づく。 「じゃあ、ここで」 「うん、ばいばい」  友達は不良崩れの一人と腕を組んで雑踏に消える。私はネオンが輝きだした繁華街に取り残された。途方に暮れるのも時間がもったいないので怪しげなお店のティッシュ配りを避けて、歩き続ける。 「離して」  誰かの声が遠くから聞こえた気がした。一瞬立ち止まるけれど、繁華街の人並みと音に隠されてしまって、声を発した張本人は見当たらない。私はまた歩きだして、抜け道になっている路地にさしかかった。
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