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長女の秋乃は去年雪国へ嫁いで行った。
次女の春香は関西の短大を卒業したら、そのまま向こうで就職が決まっている。
夫の悟は定年まであと10年ある。
残りの時間を夫婦で暮らすには充分な時間があるように思えた。
そんな時、私は毎年受けている胃がん検診で癌が見つかった。
再発の可能性はあるけれど、手術で切除しきれる可能性も低くはない「ステージ2A」と診断された。
だけど、腫瘍の大きさとしてはかなり進行している可能性も否めず、開腹してみないとどんな状況か分からないと言われてしまった。
勿論、最悪な事態も含めての話だと。
ショックと不安が入り混じって、文字通り目の前が真っ暗になるような錯覚があった。
と同時に、いつも穏やかで優しい悟は私以上にショックを受けるのではないか、彼に私以上の苦労を掛けるのではないか……。
病院からの帰り道、私は悟にどう切り出そうか、そればかりを考えていた。
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