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病院から帰ると、いるはずのない平日の夕方なのに、悟がダイニングに座って私を待っていた。
もしかして、病院の先生が連絡したのだろうか……?
悟の青ざめて落ち込んだようなその表情を見て、私はそんなことを思いながら「……どうしたの?」と恐る恐る聞いた。
「ごめん、夏子……」
俯きながら私の顔を見ることもなく、テーブルの上に一枚の書類をそっと出した。
緑色の枠が目に入るそれは、離婚届だとすぐに分かった。
「えっ……? どうして?」
私が癌だから……?
いや、きっと違う。その話はまだしていないし、病院からもそんな連絡は受けていないんだろう。
悟の方にも、何か事情が出来たんだ……。
「今回、大型のリストラをすることになったんだが、俺がそのリストラ査定員のリーダーになった」
「えっ?」
リストラと聞いてドキッとしたけれど、リストラされたのではなく、する側ということだろうか……?
この優しい悟がリストラを言い渡す側になるなんて、この人ほど不適任な人はいないはずだ。
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