1・お互いの事情

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 病院から帰ると、いるはずのない平日の夕方なのに、悟がダイニングに座って私を待っていた。  もしかして、病院の先生が連絡したのだろうか……?  悟の青ざめて落ち込んだようなその表情を見て、私はそんなことを思いながら「……どうしたの?」と恐る恐る聞いた。 「ごめん、夏子……」  俯きながら私の顔を見ることもなく、テーブルの上に一枚の書類をそっと出した。  緑色の枠が目に入るそれは、離婚届だとすぐに分かった。 「えっ……? どうして?」  私が癌だから……?  いや、きっと違う。その話はまだしていないし、病院からもそんな連絡は受けていないんだろう。  悟の方にも、何か事情が出来たんだ……。 「今回、大型のリストラをすることになったんだが、俺がそのリストラ査定員のリーダーになった」 「えっ?」  リストラと聞いてドキッとしたけれど、リストラされたのではなく、する側ということだろうか……?  この優しい悟がリストラを言い渡す側になるなんて、この人ほど不適任な人はいないはずだ。
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