カプチーノ

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 そもそも沙友里は、数時間前にいきなりわたしの家のドアを叩いて「なあ、桜。一緒に卒論、書かんか」と言いさま、わたしが「わかった」という前に「おじゃましまーす」と腹の底から元気よく発声すると、わたしの隣をするりと通り抜けて、わたしより早く、炬燵にインした。  そこからとりあえず、自分のノートパソコンと文献をテーブルに並べたところまでは、まあ、評価してあげたい。一応は、どこぞの双子が道標代わりに撒いたパンくずほどのやる気はあったということの裏付けであると言ってもいいだろう。しかしながら、沙友里はそれらを開く素振りを一切見せず、そこからはテレビに食らいついたままだ。  だからこそわたしは、できる限りそれに気を取られないようにしつつ卒論を進めよう…と思っていたわけだが、沙友里が笑い声を上げるたびに集中力が切れてしまうし、沙友里があまりにも可笑しそうに笑うものだから(そんなに面白い番組なのかな)と気になってしまい、ついつい一緒になってテレビ画面に視線を移してしまうのだ。その結果が、今の状況である。
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