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「ねえ、沙友里」
うっさいのう、ちょうどいいとこやねん……と言われてしまうのを防ぐために、CMに入ったあたりで、わたしは声を上げた。
「うん?」
にこにこと、人懐こそうな笑顔を浮かべながら、沙友里はわたしの方に顔を向けてきた。沙友里が笑顔以外の表情になっているところを、それなりに沙友里と親密なわたしも、あまり見たことがない。
「あんた、卒論やりに来たんじゃないの」
「うん」
「この三時間くらいの間に、何文字書いた?」
「頭の中では、三万字くらい書いてんねんけどな」
「頭の中じゃなく、アウトプットしなさいよ」
「そうはいかん。そもそもこの炬燵っちゅうのが、あかんねん」
責任転嫁というのは、まさに今の状況にぴったりの言葉だと思う。炬燵はそんなふうに沙友里から言いがかりをつけられても、わたしと沙友里のことを暖め続けている。なんといじらしいことか。これ、そんなに高いものでもなかったのに。
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