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「こたつで寝ちゃいけないよ。脱水症状で死んじゃうからね。こたつは危ないんだよ」
祖母はそう言ってこたつで寝こけたあたしを叱った。こたつで寝るのはこんなに気持ちいのに何で危ないんだろうと恨めしく思う。気持ちいいのは危ないもんだとその時あたしは考えた。
十九時になったから店じまいにした。外に置いてある一冊百円古本が入ったダンボールを中へ運ぶ。戸締りして、カーテン閉めて、店内の明りを消して家の中に入ろうとして飛び上がりそうになった。
誰もいないはずのこたつが膨らんでいる。いつの間に。スマートフォンを握りしめてじりじり近づくと、背伸びしてふくらみのもとを覗き込んだ。ひとつにくくった金髪が見えた。くくってあるゴムに覚えがある。シャルルだ。
(1ヶ月ぶりか)
シャルルは――なんだろう。フランス人の男だ。年は知らない。素性も知らない。フランス人だといったからフランス人だと思っている。ある日突然、あたしの店、青木古書店にふらっと来てその日の内にあたしにキスしてこたつに潜り込んで一夜を明かした。それからしばらくここにいて、そしてある日突然いなくなった。それからはその繰り返しだった。突然来てこたつに潜り込み、こたつがないときは扇風機の前に陣取って手招きする。どうやっているのか、あたしの知らない間に上がり込んで季節を満喫していた。普通だったら容赦なく警察を呼ぶのにあたしはそうしたことは一度もなかった。別にシャルルは美青年ではなかった。でも、シャルルの腕の中に入るとなんでもよくなってしまった。今のこともシャルルのこともこれからのことも。あぶないことをしている自覚はあった。この先に待つのは破滅か、別れしかないことを知っていた。でも、あたしはなにもしなかった。そうさせるものが確かにシャルルにはあった。危ない男だった。どんな男よりシャルルが一番危ない男だった。
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