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「冷たい!」
シャルルが悲鳴を上げた。シャルルの足にはあたしの足が絡んでいた。あたしの冷え切った足が。
「あぶないな」
シャルルは寝ぼけた声で言った。
「しんぞうまひになったらどうるの」
「ひとん家で勝手に寝てるのが悪い」
「ひとん家じゃないよ。美邦の家」
「屁理屈」
「へり……?」
「あとで教えてあげる」
「今」
「ご飯作るの」
「なんか頼めもう。きつねうどんがいい」
「誰がお金出すの」
「僕」
シャルルはにこっと笑った。あぶないと思った。気持ちいいのは危ない。
「だから、こっち来て。ヘリクツ教えてよ」
気がついたらシャルルの腕の中にいた。厚い胸板に鼻先を押し付ける。今日一日の嫌なこと全部、嫌な客に言われたこととか、失敗したこととか、怒られたこととか、寒さとか重さとか全部、溶けてどうでもよくなっていく。あぶない。気持ちいいのはあぶないのだ。こたつで寝るのがあぶないように。シャルルの腕の中にいるのはあぶないのだ。
「美邦」
甘い声が耳朶をくすぐる。こたつとシャルルの体温で骨ごと全部溶けていく。現在も未来も何もかも溶けて気持ちいい何かに変わっていく。
「美邦」
あぶない。
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