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──踊れるなんて、はじめて知った。
ランスは足を踏みだした。
「こないで!」
するどくとめられる。エレインが動きをとめ、もう一度、きっぱりと制止した。
「来ちゃ、ダメ。……池よ。あなたが乗ったら、氷が割れてしまう」
「あなたは渡れるのに?」
不満をもらすと、微笑みがかえった。
「フレッドもそう言ったわ。あの子が小さいときはふたりでよく踊ったの。正餐会の夜は、こどもは暇だから」
笑みが深くなった。
「おとなになってひさしぶりに踊ろうとしたら、どぼん、よ。肺炎になって死にかけて、大変だった」
ふ、と、視線がどこかにむかう。笑みが融けて消える。
確信した。いまなら、言える。
「飲んで、もらえませんか。肌に歯を立てて、くちびるをつけて」
手をさしのべて、見よう見まねの礼をする。ただしい誘いかたなどわからない。ただ、薄氷のうえで小さな手がぴくりと動いた。腕が持ちあがる。──届かない。
大きく踏みこんだ。音を立てて、池の氷にひびが入る。足元が割れる。エレインは迷わず、こちらへ飛んだ。のばされた手をとってひきよせ、体勢をくずして雪のうえに背から転がる。
ため息のようだった。
そよ風に白金の髪がひらめいた。胸にふせていた身を半ば起こして、ランスの首筋を見つめる。そうっと、肌をなぞる。
つめたい指になでおろされて、くちびるがわななく。ランスは満ち足りて、瞳を閉じた。
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