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『ほんとうに? 雇ってくれるの?』
『フレッドの葬儀が終わったらね。よそに隠れていなければならないけれど』
言い添えて、女の子は右手をさしだした。何かくれるのかと両手を出して、ひっそりと笑われる。
『いまからあなたはウィンドソア・ハウスの表の主よ。たったひとつの約束さえ守れれば、一生食べていけるわ』
一生! 思わぬ響きに顔をあげる。
ランスの手をひいて行列とは逆の方向に歩きだしながら、かわいらしい声は告げる。
『けっして、わたしを飢えさせないで。いまは人間の法に守られているけれど、お屋敷と農場はわたし一代に無償貸与されているだけなの。わたしが死んでしまえば、何ひとつ、あなたのもとには残らない。即座にこの生活に逆戻りよ』
握りしめた女の子の手は、石段よりもなお冷えていた。
前を行く黒い帽子から、短い髪がのぞいている。雪が毛先にふれて砕け、うなじに落ちる。降る雪、降る雪、溶けもせずに羽毛のように首筋を飾っていく。
『料理や給仕をすればいいってこと?』
たずねながら、視線をさげた。石畳には雪が積もりかけている。そのうえに、遠くのガス灯に照らされ、ランスひとりのうすい影がのびていた。
『そうね、……いずれ、わかるわ』
濁したのを、追及する気は起きなかった。
暖炉とあたたかな灯り。屋根のある寝床。食うに困らない暮らし。それらを手に入れるのと引き替えに恐怖心を道端に捨て、夜道をただ歩いた。
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