日葵

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両親は記念にやってみるかって感じで期待していなかった。なにせ100人近い参加者で合格するのは2、3人だけと言われていたからだ。だけど、その中に悠太が選ばれた。 仲良しの友達のチームを離れ、全員がプロを本気で目指す集団の中に加わった。プロの選手と同じユニフォームを着て、同じ場所で練習をした。みんな別々学校から通っている子供たち。仲良くなることが目的ではなくて、ポディションを奪い合うライバルだった。 みんな体は小さくて幼くても確かな目標と強い意志がある。使う言葉に建前なんてなくて、すべて本音で露骨に傷つける。負けず嫌いの頂点に立つ子供たちの集まりだった。気弱な悠太は声を出すこと出来ずに委縮していた。 「辞めたいの?」 「わかんない」 「パパとママには言ったの?」 悠太は答えられなかった。呼吸が震えて泣いていたからだった。日葵は両親には言っていないのはそれでわかった。言っていないのは言えないからだ。言えないのは両親が寄せる期待に応えたいから。 悠太が泣くことによって日葵の背中に伝わる振動が、悠太の苦悩を感じさせて心を揺さぶった。日葵は向き直って悠太を抱きしめた。悠太は思いやりに触れることで、さらに激しく涙が流れていった。二人は寒さも相まって、体の震えが止まらなかった。悠太が泣き止んでも、その震えは止まらなかった。 「寒いね」 「うん。寒い」 日葵は布団をどかして、ベッドを降りた。膝を抱えて丸まっている悠太の手を取って立たせた。 「戻るよ」 「さっきの内緒だよ」 「わかってるよ」 悠太が両親に弱音を吐かないのは喜ばせたいから。日葵はそれが苦しくて逃げてしまった。両親の関心が薄れていったのも、期待をされなくなったのも、全部自分から遠ざけてしまっていたからだ。そんなことを気づかされた。 日葵は立ち上がった悠太を抱きしめた。悠太に久しぶりに泣きつかれて、日葵のやさぐれていた心が温かくほぐれていった。
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