日葵

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「また自分のお年玉で買ったんだよな」 父が悠太の頭をポンポン叩きながら言った。悠太は日葵の為に、お年玉を毎年使ってくれる。去年は同じブランドの髪留め。一昨年はキーホルダー。 年齢を重ねるごとに、貰えるお年玉の金額は増えていく。それとともに日葵へのプレゼントに使う金額も毎年増えていった。悠太は自分よりも、日葵が喜ぶことをするのが好きな子だった。 悠太は昔から影のように日葵にくっついて歩いて、日葵の真似ばかりしていた。幼稚園の時には、それぞれの教室に別れる度に泣きだして、授業が始まっても泣き止まなくて、諦めた先生が日葵の教室に連れてきて一緒に授業を受けさせることが度々あった。 日葵としては恥ずかしいなって気持ちは多少あったけど、先生に頼られるってことが嬉しかったし、悠太は日葵のそばにいられれば満足で、わがままも言わないし、日葵の言うことは何でも聞いた。まるで小犬のような弟で、日葵としても愛らしい存在だった。実際にお手って言えば、悠太は喜んでお手をした。 それがサッカーを始めてから変わってしまった。週末は練習か試合があって、休みでも外で友達とサッカー。暇さえあれば一人でもサッカー。あれだけくっついていたくせに、日葵の後について歩くことも、泣くこともなくなってしまった。 日葵はプレゼントを受け取った。コタツから出ないで、手だけ伸ばして。中身を見るとマフラーだった。それはシスタージェニーの新宿店限定の商品。日葵が欲しいと望んでいたもので、何ヶ月も前から父に連れて行って欲しいとせがんでいたお店。仲の良い友達の中で、行ったことがないのは日葵だけだった。商品だけが目的じゃなくて、行くことに大きな意義があった。 「なんでこんなの買ったの。欲しいやつと全然違う」 日葵はそう言ったけど、悠太が買ってきたものは、間違いなく日葵が望んでいたものだった。自分がお店に行きたかっただけで、怒ったのは悠太に対する八つ当たり。
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