日葵

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「こんなの要らない」 日葵はマフラーを投げつた。それが壁に当たってストンとゴミ箱に入ってしまった。日葵はやっちゃったって思いながらも顔を背けて表情を隠した。 「3日になったら連れていってあげるから今日は我慢してよ」 母が困り果てて言った。 「嫌だ。今日行く」 「ママが日葵の好きなケーキ作ったから、これ食べて機嫌直してよ」 ブルーベリーとラズベリーがふんだんに盛られたホールケーキ。たった今、完成したものを母がコタツの上へ運んだ。だけど、日葵は顔を伏せてしまって見ようとしない。母も父も悠太も顔を見合わせて、困ったなって顔をコクって傾けた。そのとき父が余計なことを閃いて、ゴミ箱からマフラーを取り出すと自分の首にぐるぐる巻きだした。 「似合うでしょ? パパがマフラーもらっちゃおうかな?」 12歳になった女の子にそんな手が通用するはずもなく。日葵の心を1ミリも揺さぶることが出来ずに無視された。そこで止めればまだましだったのに、今度はマフラーをうつ伏せの日葵の首元にあてがった。 「でもやっぱり日葵には敵わないな。日葵が一番可愛いよ」 父の見え見えのご機嫌取り。ただただ日葵をイラつかせるだけなのに、母も悠太も悲しいことにそれに乗っかって日葵とマフラーを褒めちぎった。 日葵がへそを曲げると、いつもこうやって3人が結託する。良いことばっかり言ってくれても3人の三文芝居を見せられることは、日葵にとって孤独を感じるだけだった。同じ空間に4人でいるのに、1人を感じて苦しかった。 「こんな家に生まれてくるんじゃなかった」 カーペットに顔を伏せたまま日葵が言った。母の表情が変わったことを、顔を上げなくても肌で感じた。 「いい加減にしなさいよ」 母の声色が低く重くなった。母は知っていた。マフラーが日葵の求めていた商品であることを。そして、自分の誕生日にパパと悠太が出かけたことに怒っていることを。 「ちゃんと説明したよね? もう6年生なんだから理解出来るよね?」
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